バリュープロポジションキャンバスとは
バリュープロポジションキャンバスは「顧客価値」をデザインするためのツールです。顧客の真の望みや痛みを洞察し、その顧客にフィットする価値提案を明らかにします。
また、このキャンバスはビジネスモデルキャンバスの「価値提案」と「顧客セグメント」をクローズアップしたものであり、ビジネスモデルキャンバスと組み合わせることでより強力な効果を発揮します。次の動画をご覧ください。
バリュー・プロポジション・キャンバス解説動画(日本語字幕付き) from BMIA on Vimeo.
顧客が望む価値と事業者の考える価値にズレが生じている
日々、世界中で新しい事業が生まれては消えていきます。どれほど優れた技術や販売戦略を持っていようと、結局は顧客が望んでいなければ新規事業としてうまくいきません。
厄介なのは、顧客が商品やサービスに求める価値というものはどんどん変化しているということです。物質的に満たされた現代において消費者の第一選択肢は「特にいりません」であり、ライバルより高機能高品質な製品を作れば売れた時代はとうに終わっていると言われます。
顧客は物質的な価値よりも内面的な充足を求める方向に向かっており「モノからコトへ」や「所有から利用へ」という表現でその必要性があちこちで説かれています。
しかしこれは言うは易し行うは難しです。物質的な競争の時代を生きてきたビジネスマンにとって過去の成功体験は今の自分を形作る血肉に他ならないため、なかなかマインドをチェンジ出来ないのだと私は思っています。
だからこそバリュープロポジションキャンバスのように顧客価値を視覚化できるツールが必要であり、現代型アントレプレナーシップを身に着けるために欠かすことが出来ないものだと思います。
使いこなすのが難しい
バリュープロポジションキャンバスはとてもシンプルな構造なのでちょっと使い方をかじる程度ならば短時間でで習得できます。それにも関わらず(だからこそ?)、実践の中で使いこなすのはとても難しいと言われています。
特にカスタマープロファイル(右のブロック)の使い方に悩む方が多く「ゲインとペインが単に裏返しになってしまう」とか「カスタマージョブとゲインの違いが分からない」とか「整理は出来るけど新しいアイデアの発想がうまく出来ない」など様々な質問を頂きます。
あまり使い方のルールに固執してしまうと本質を外すように思いますが、書籍やセミナー等で習うやり方だと確かに少し難しいかもしれません。そこで私が実際に起業家支援などの現場で培ってきた経験からいくつかポイントをご紹介します。
ポイント1:カスタマープロファイルはこう使う
カスタマープロファイルの3要素にどのような情報を書き出すかは様々な解説がありますが、私は以下の基準で書き出すようにしています。またこのやり方で殆どの人が迷わず書き出せるようになっていると思います。
カスタマージョブ |
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ゲイン |
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ペイン |
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ポイント2:事実に立脚する
カスタマープロファイルには思惑が入り込みやすいため注意が必要です。自分にとって都合の良いことばかり書き出したくなるんですね。こうなると作成中はとても気持ちが良いのですが、最終的に顧客が望まないものを生み出してしまいます。
思惑が入り込む余地を減らすために「事実に立脚する」ことが大切です。
いきなり想像でバリュープロポジションキャンバスを作成するのではなく、想定顧客を設定したらまず現場に飛び出して起きている事実を観察(インタビューを含む)し、観察結果に基づく自分なりの洞察を得てからバリュープロポジションキャンバスの作成に着手すると、顧客の内面に深く踏み込んだカスタマープロファイルを作成することが出来ると思います。
洞察においては現場の空気感やインタビュー時の相手の微妙な表情・口調・熱量の変化などが重要な材料とななってきますので、このフェーズは他者に任せるのではなく必ず自分が実行することが肝要です。
ポイント3:アイデアを広げる
バリューマップ(左側のブロック)はソリューションの原型です。ペインを減らし、ゲインを満たしてカスタマージョブを実現する方法を見つけます。
バリューマップについては積極的に他人の知恵を活用しましょう。
カスタマープロファイルを達成する方法は無限にあるはずなので、色々な人の力を借り、自由な発想でたくさんアイデアを出しましょう。もちろん最終的には実現性や魅力度などを踏まえて絞り込んでいくのですが、この段階でアイデアの可能性を広げておくことが後々の事業成否に大きく影響してきます。
どういう事かというと、どんなに良さそうに見えるアイデアでも「最終的にはやってみなければ分からない」からです。アイデアを現実世界に持ってきた時、ほぼ確実に事前に頭で思い描いていた通りにはいきません。その現実に直面した時、多くの人は困惑・混乱します。そして何がいけないのか分析しつつ試行錯誤に入っていきます。
何度も新規事業を成功させる人は、優れたアイデアを出すのがうまいのではなく、試行錯誤を脱するのがうまいのだと私は思っています。
あらかじめソリューションの可能性を広く探索しておくと「今回の実験はうまくいかなかったけどまだまだやれることはたくさんある」とか「あれ、もしかしてあっちのソリューションの方が合いそう」といったように試行錯誤を脱するきっかけを見つけやすくなります。
バリュープロポジションキャンバスは顧客価値をシンプルに視覚化して他人と共有しやすいツールです。その特性を最大限に活かせるのがこの使い方だと思います。
ポイント4:既存の解決手段と比較する
カスタマープロファイルで想定した顧客課題に対し、現状顧客はどのように対処しているのか調べましょう。ライバルとなる商品やサービスを購入しているかもしれませんし、顧客手作りのソリューションで回避しているかもしれません。「何もせず我慢」という対処もあるでしょう。
そうした既存の解決手段をバリューマップとするバリュープロポジションキャンバスを作成し、自分のアイデアと比較して優位性や独自性を明確にしましょう。それがビジネスモデルのコンセプトへと繋がっていきます。
ポイント5:人はそんなに合理的じゃない
顧客価値には「機能的価値(必要な処理を行えるか)」「感情的価値(どのような感情を得たいか)」「社会的価値(人からどう見られたいか)」の3つの側面があります。提供者は客観的かつ合理的な説明が立ちやすい機能的価値に目が行きがちですが、現実の顧客の購買行動では感情的/社会的な側面が決め手になることが多々あります。
また、機能的価値は他社から真似されやすいのですが、感情的価値と社会的価値は主観が強く他社が容易に真似することが出来ません。この点を意識すると強いバリュープロポジションをデザインできると思います。
ポイント6:仮説をテストする
作成したバリュープロポジションキャンバスは頭の中で描いた仮説です。ビジネスの根幹であるバリュープロポジションが誤っていたらどんな戦略も役に立ちませんし、多額のコストをかけた後にそのことに気付いたらもう手遅れです。
ですから、この段階で現実のターゲット顧客に対してアイデアをテストします。といってもまだビジネスモデルはありませんから、確認するのは「顧客課題は本当に存在するのか」そして「解決策は顧客にとって十分に魅力的なのか」の2点だけです。
テストの方法はデザインしたバリュープロポジションの内容によってケースバイケースですが「時間もお金もかけずに出来ること」が望ましいです。駅構内などに花屋を展開する青山フラワーマーケットの井上社長は花の卸売り市場を見学した時に「市場で仕入れた花を鮮度の高いうちに低価格で販売すれば買う人がいるはずだ」という仮説を思い付き、その場で花を購入して知人に売りに行きビジネスになると確証を得たという話などがあります。
私の場合は「セミナーを開催する」という方法を良く取ります。顧客課題に関連するテーマで1.5時間程度のミニセミナーを企画して実行すると、例え少人数でもテーマに関心を持つリアルな顧客候補との接点が作れますし、インタビューなどの方法でアイデアの感触を得ることが出来ます。この方法はあらゆるテーマに応用できますし、今の時代はストリートアカデミーやPeatixなど誰でも簡単にイベントを企画・集客ができる便利なサービスがありますのでお勧めしています。
次はビジネスモデルデザインへ
バリュープロポジションデザインである程度の感触を得たら、次はビジネスモデルデザインに進みます。ビジネスモデルデザインについてはこちらのページを御参照ください。
事例のご紹介
実際に存在するビジネスをバリュープロポジションキャンバスで分析した事例を「バリュープロポジション事例集」でご紹介しています。
講座のご紹介
アントレプレナーズ・ジムではバリュープロポジションデザインのトレーニング講座を定期的に開催しています。講座の詳細とお申込みはこちらのページをご覧ください。