新規事業を始めたいけれどうまくいかない・・・
起業したいけどなかなか前に進まない・・・
新規事業がうまくいかない理由は様々ですが、ある共通点があります。
この記事ではその共通点と解決方法についてお話したいと思います。
なぜ新規事業は行き詰るのか
新しい事業を立ち上げる際には、とても多くのことを検討し、実行する必要があります。
例えば「ターゲット顧客を誰に設定するか」「どのような商品を提供するか」「収益モデルはどうするか」「資金はどうするか」「メンバーはどうするか」「どうしたら上司の承認を得られるか」などです。
置かれている立場や状況によっても異なりますので、数え上げたらきりがありません。
一つ共通して言えるのは、これらの多くが仮説だということです。
仮説ですから間違っている可能性があります(むしろ間違っている可能性の方が高いと思います)。そしてそれぞれの仮説は互いに関係しているので、1つでも仮説に誤りがあると他の仮説も芋づる式に見直さなければなりません。
しかも「あちらを立てればこちらが立たず」となりがちで、そうこうしてる内に行き詰まってしまうということです。
こうなると「もう何をやってもダメだー」という気持ちになってしまいます。
私が起業や新規事業のご相談に対応する時は、必ず最初に「起きていることの全体像」を聞き出すようにしています。
前述したように新規事業は「あちらを立てればこちらが立たず」的なところがありますので、部分的な課題だけ解決しても全体のバランスは崩れたままということが少なくありません。むしろ悪化する可能性すらあります。色々な人にアドバイスを求めてぐちゃぐちゃになってしまうのがこのパターンです。
未知の世界に踏み込む新規事業では、細部の問題にこだわるよりも大局観をもって全体のバランスを見ながら大雑把に進めた方がうまくいくケースが多いと思います。
そのためには複雑な物事をシンプルに整理して全体像を把握することがとても重要です。ですから、最初から詳細な事業計画書を作ることを私はお勧めしていません。
それでは、新規事業をシンプルに整理する方法をご紹介します。
事業を極限までシンプルにしてみる
そもそも事業とは何でしょうか?
私は「価値を生み、顧客に買ってもらうこと」と定義しています。
ですから、既に価値(商品)を持っていれば、手売りでも何でもいいのでそれをお客さんに売り始めれば今日から新規事業をスタートできます。
シンプルですよね?
ここを出発点に少しずつ細分化していきたいと思います。
1段階ブレイクダウンする
事業とは「価値を生み、顧客に買ってもらうこと」だと説明しました。
それでは、新規事業を立ち上げるために無くてはならないものとは何でしょうか。
会社? いえいえ、会社が無くても事業は作れます。
仲間? いえいえ、仲間がいなくても事業は作れます。
資金? いえいえ、資金は事業の内容によって必要性が決まるものです。
この段階で必要なのはもっと大きな括りであり、それはビジネスモデルとマネジメントです。
ビジネスモデル | どのように価値を創造し顧客に届けるかを構造的に表したもの |
マネジメント | 目標を達成するために行う活動 |
それぞれどのようなことか以下で説明します。
ビジネスモデル
新規事業の最初の大きな目標は「ターゲットとするマーケットに適合するビジネスモデルを見つけること」です。この状態をProduct/Market Fit(プロダクト・マーケットフィット)なんて言ったりします。
要するに商品をマーケットに投入すれば確実に売れることが実績をもって証明された状態です(もう仮説ではありません)。
プロダクト・マーケットフィットを達成すれば、あとは投資して事業を拡大していけば良いわけです。逆に言えば、この状態に到達する前に大きく投資してしまうとムダになる可能性が高いということです。
ビジネスモデルは下記の3要素で構成されています。プロダクト・マーケットフィットを達成するには、この3つを全て同時に満たすビジネスモデルを見つける必要があります。
顧客価値 | 顧客にとって価値があり、顧客へ届けることができること |
技術的実現性 | 商品として実現できること |
経済持続性 | 経済的に持続可能であること |
大抵の場合、この3要素のバランスは以下のようにいびつなものです。
- お客さんにとって価値があることは明確だけど実現方法が見つかっていない
- 商品を作る技術力はあるが誰にどんな価値を提供するかはっきりしていない
- お客さんも喜ぶし、実現性もあるけどお金に変える方法が分からない
試行錯誤してバランスを調整しつつ、マーケットに適合するビジネスモデルを探すのですが、このままでは抽象度が高すぎて具体的な行動に移ることが出来ません。
そのためもう一段ブレイクダウンします。すると以下のように9つの要素に分類することができ、ここまでくると具体的なビジネスの全体像をイメージできるようになります。
- 顧客セグメント
- 価値提案
- 顧客との関係性
- チャネル
- 主要リソース
- 主要活動
- パートナー
- 収益
- コスト
この9つ要素を使ってビジネスモデルをデザインするためのツールとして世界的に使用されているのがビジネスモデルキャンバスです。ビジネスモデルキャンバスは紙1枚のシンプルなツールですが、その効果は極めて絶大で今や新規事業に欠かすことの出来ない重要なツールとなっています。
ビジネスモデルキャンバスのより詳細な説明はビジネスモデルキャンバスの使い方をご覧ください。
マネジメント
ここで皆さんにお伝えしたいことがあります。それは「たとえ同じアイデアを持っていても成功する人は成功するし、失敗する人は失敗する」ということです。
この差が生まれる大きな要因にマネジメントの有無があると私は考えています。
少し話がそれますが、一昔前のシステム開発プロジェクトは成功率がとても低いものでした。プロジェクトマネジメントの概念がなく個人の管理能力や経験に依存していたことが原因です。その後、世界的にプロジェクトマネジメントの重要性が唱えられ、導入されるようになるとプロジェクトの成功率は上昇していきました。
筆者は長年に渡ってプロジェクトマネジメントを生業としてきました。プロジェクトの現場は想定外の出来事が普通に起こりますし八方ふさがりになる事も珍しくありませんが、それでも出口は必ずあるものです。
今の新規事業の取り組みはマネジメントが存在しなかった頃のシステム開発プロジェクトにとても似ていると感じます。例えばこんなケースです。
- 目指す事業規模や事業領域が不透明なままスタートして混乱を生む(スコープマネジメントの問題)
- 新規事業を既存事業と同じ指標で評価してしまう(品質マネジメントの問題)
- 組織内の抵抗や、チーム内の意思疎通がうまくいかない(コミュニケーションマネジメントの問題)
- 今やるべきことをやらず、今やらなくても良いことをやってしまう(タイムマネジメントの問題)
- 資金や人材リソースをうまく配分できない(リソースマネジメントの問題)
- etc
特に感じるのは「既存事業の仕事のやり方で新規事業をやろうとする」ことです。例えば試行錯誤している段階で数年間の収益計画を立てようとしたり、売上や利益で評価しようとしたり、過剰な品質や効率性を求めたりという具合にです。
事業として既に成立している既存事業と、未知の世界で試行錯誤する新規事業では進め方も評価基準も全く異ります。このため新規事業に合わせたマネジメント技法が必要だと考えています。スクラムのようなアジャイル開発手法もあるのですが、事業を起こすためのマネジメントとしては足りない点が多々あります。
新規事業プロジェクトのマネジメント技法については別の記事に今後書いていこうと思いますが、最低でも以下のマネジメント領域について意識することが大切だと思います。
- スコープマネジメント
- スケジュールマネジメント
- リソースマネジメント
- コミュニケーションマネジメント
- 品質マネジメント
まとめ:新規事業の全体像
ここまでの内容を整理すると下図のようになります。

実際にはもっと細分化して要素が増えていきます。それでもこの全体構造を把握しておけば新規事業の取り組みはシンプルになり、行き詰りを起こしにくくなると思います。